ドルの国際的な地位は下がる一方だったが、資金のドル離れを防ぐため、高金利政策をとり続けたのである。 これに対して、日本は慢性的な貿易黒字に悩むようになった。

すでに自動車などの対米輸出には規制枠が設けられ、「集中豪雨的な輸出」を避ける制度ができていたが、それでも黒字は減らない。 八五年度の黒字は六一六億ドルだったが、八六年度は一〇〇〇億ドルの大台に乗り、三年間もこの水準が続いた。
このうち対米黒字は四〇%ほどを占め、米国の日本叩きを加速させたのである。 日本も静観していたわけではない。
為替管理の自由化、関税率引き下げなどに加え、市場開放のためのアクション・プログラムを作成。 当時の中曽根首相がテレビで「国民一人当たり一〇〇ドルの外国製品を買って」と呼びかける始末。
その間にも、円高ドル安が進行していたのである。 それでも事態はなかなか解決せず、貿易インバランスの解消には、大幅な円高ドル安という為替レートの変更が必要だという考えが広がり、それが「プラザ合意」につながったさて、「円高不況」の最中も株価は上昇し続け、「不況期の株高」の現象を呈していた。
空前の金融緩和によりカネ余り現象が起き、企業はダダ同然の資金を借り入れ、借り入れができなければ株高を利用したエクイティ・ファイナンス(新株発行を伴う資金調達)で資金を調達したのである。 この大量の資金は設備投資に回されたほか、余った分は土地、株式に向かった。
「列島改造ブーム」に似た資産価格の急騰が起こり、のだ。 サラリーマンが大都市における一戸建て住宅を購入することはほぼ不可能になった。

土地や株を担保に借金し、その金でまた土地や株に投資する「バブル景気」が隆盛をきわめた。 後退の始まりを「バブル崩壊」と呼んでいる。
もう少し経済用語を交えていうと、バブルとは土地や株式などの資産価格が、実体経済の基礎的諸条件(ファンダメンタルズ)を上回って上昇する現象を指す。 あるいは、地価や株価が国内総生産(GDP)の伸びを上回って高騰することをいう。
具体的に見てみよう。 経済企画庁によると、「バブル景気」の始まりは一九八六年十一月。
以後、九一年二月までの四年半ほど、日本経済は空前の好況に「バブル景気」「バブル崩壊員はては「バブル産業」「バブル人間」などという言葉まで登場したバブルという言葉、いったい何を意味しているのだろうか。 副バブルは本来、英語で〃泡〃の意味。
転じ秘て、経済の実体を上回る見せかけの好況とい狂う意味で使われている。 しかし、ムード的に鉦使われることも多く、経済学的に厳密な定義淵があるわけではないので、使い方はかなり暖昧である。
隈一般的には、一九八〇年代後半の資産インフレを伴った景気拡大期を「バブル景気」と麺呼び、九〇年以降の急激な資産デフレと景気沸いた。 八七年度から九〇年度までの実質成長率は、八八年度の六・〇%を最高に平均五%を超す伸びだった。
「プラザ合意」で始まった円高不況の八六年度が三・一%だったから、異常な好景気だったのである。 その中で、資産価格の上昇はGDPをはるかに上回った。
株価は「プラザ合意」から急速に上昇し始め、東証の平均株価は八七年一月には史上初の二万円を突破。 この年十月のブラック・マンデー(ニュョク株式市場の暴落)で一時的に大幅に下げたものの、すぐに回復し、八九年末には史上最高値の三万八九一五円を記録した。

わずか三年で二倍近くまで上昇したわけだ。 一方、地価の高騰も記録的だった。
八三年ごろから、すでに東京都心部の商業地では上昇したが、八六年ごろから東京圏全体の商業地の価格が急上昇しはじめ、住宅地もこれに続いた。 約一年遅れて大阪圏でも上がりはじめ、次第に地方都市に波及していった。
国土庁の公示地価(八三年=一〇〇)を基準に指数化すると、東京圏の商業地は八六年の三七から九一年は三四一と二・七倍になってピークアウト。 住宅地も一〇七から二五〇へ二・三倍となった。
大阪圏の場合はもっと極端で、商業地は八七年の三三から九一年は実に三八九の三倍に、住宅地も二三から二九六と二・六倍に跳ね上がった。 八三年度から数えるとGDPは一・五倍になったが、地価は二倍、三倍になったのである。
なぜ、株価や地価が急上昇したのか。 企業収益も目に見えて好転しはじめ、土地持ち企業は保有地を担保に金融機関からの借り入れを増やし、設備投資や研究開発に回すほか、株式・土地投資に動いた。
買い増した資産を担保にまた借金し、別の資産を買うというマネーゲームが大々的に展開されたのである。 また、株高を利用して、多くの企業がエクイティ・ファイナンス(新株発行を伴う資金調達)に走り、転換社債、ワラント債など株がらみの債券を大量に発行。
非常な低コストで資金を手に入れ、それを株などに投資する最大の原因は、八六年度に一〇〇〇億ドルを超えた巨額の貿易黒字を背景に、空前の金融緩和が重なったため。 これによって「カネ余り」現象が生じ、株や土地に向かったのである。

企業も多かった。 財テクが大流行し、八七年のNTT株発売で個人の財テクブームにも火がついた。
株式にとどまらず、ゴルフ会員権、絵画、リゾトマンションなども利殖の対象になった。 バブル・マネーは個人消費にも大きな影響を与えた。
絵画、美術品、貴金属などの高額品が飛ぶように売れ、自動車も「3ナンバ車」と呼ばれる高級車がおもしろいように売れた。 輸入車、輸入家具、輸入絵画など値の張る商品に人気が集まり、海外旅行が年間一〇〇〇万人を超えたのもこのころで、日本の経常黒字はみるみるうちに減っていった。
このため、経常黒字の対名目GDP比は八バブルが拡大した理由は、株価や地価の資産インフレを適当な所で抑制するシステムがなかった点が大きい。 たとえば株価の場合、ブラック・マンデー以降の上昇ぶりはだれの目にも異常で、日本の株価だけが突出していた。
この間、いわゆるインサイダ取引などの不正行為も数多く発生し、リクルト事件は竹下内閣を崩壊させるほどの社会問題となったが、株価を抑制する金融面のコントロールはなかった。 また、地価にしても国土庁による地価監視システムは事実上機能せず、大蔵省や経企庁などの専門官庁も、地価上昇をしばらくは傍観していた。
平成ハ年度の四・四%からどんどん縮小し、九〇年度は一・三%まで下がったのである。 「内需拡大」を絵に描いたようなパフォマンスだった。
しかし、弊害も大きかった。 東京圏の土地は普通の人には手の出ない水準まで上がってしまった。
千代田区や港区など都心の住宅地は、地上げ屋による住民の〃追い出し〃が行われ、古い住宅の間にサラ地が虫食い状態に広がる光景が見られた。 地方から出てきたサラリーマンは、一戸建てはおろかマンションさえ高くなりすぎて買えず、「勤労意欲をなくする」として社会問題に発展。

政府は重い腰を上げて地価税の創設、不動産融資の総量規制など、強力な地価対策に踏み切った。 バブル崩壊から平成不況へ、なぜこれほど不況が長引く、とりあえず、前半の不況を概括してみよう。
最大の要因は株価と地価の下落、それに伴って設備過剰になった企業の設備投資の急ストップだった。


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